東武東上線に「令和の渡し舟」が誕生。新型90000系が甲種輸送を開始、デザインに秘められた300年の物語

2026年2月3日、東武東上線の次世代を担う新型車両「90000系」が、日立製作所笠戸事業所(山口県下松市)から関東へ向けて出発しました。現行9000系の置き換えとして登場するこの車両は、東上線沿線のアイデンティティである「舟運(しゅううん)文化」を現代に蘇らせたデザインが最大の特徴です。

出典:東武鉄道YOUTUBE

■ コンセプトは「地域と人と未来をつなぐ わたし舟」

東上線沿線を流れる荒川や新河岸川は、かつて江戸とを結ぶ物流の主役でした。新型90000系は、このルーツを敬意を持って取り入れています。

  • 外観: 高瀬舟の船底をイメージした「逆スラント形状」の先頭部。
  • カラー: 東武百貨店のシンボルカラーでもあるブルーを配し、信頼感を表現。
  • 省エネ: 最新機器の導入により、従来比で40%以上の消費電力削減を実現。

■ 船の開放感と「川越」の粋を凝縮した車内デザイン

車内に一歩足を踏み入れると、そこには「令和の渡し舟」としてのこだわりが詰まっています。

  • 空間構成: 上部を白、下部を黒とすることで、船のような広々とした開放感を演出。
  • 床のデザイン: 川越城本丸御殿の枯山水をイメージ。
  • 座席: 木目調の茶色い座席は船の質感を意識。優先席(茶)と一般席(黒)で色分けされています。
  • 立湧柄(たてわくがら)の仕切り: 座席端のガラス仕切りには、水蒸気が立ち上がる様子を表す伝統の「立湧柄」を採用。光が当たると、その文様が床に投影される美しい仕掛けです。
  • 大開口のドア: 地下鉄直通仕様のため壁の制約がある中、ドアの開口を広げ、小さなお子様でも外の景色を楽しめるよう配慮されています。
出典:東武鉄道YOUTUBE

■ 歴史のバトン:舟運から鉄道へ、星野仙蔵の想い

なぜ今、デザインのモチーフに「舟」が選ばれたのか。そこには東上線誕生の立役者、星野仙蔵(ほしの せんぞう)の物語があります。

江戸時代から続く回漕問屋「福田屋」の当主であった10代目・星野仙蔵は、明治末期、自らの家業である舟運の衰退を予見し、地域の発展のために鉄道誘致に全てを捧げました。

  1. 「鉄道王」根津嘉一郎との協力: 衆議院議員時代に出会った初代・根津嘉一郎と共に東上鉄道を創設。
  2. 私財を投じた決断: 舟運という自らのルーツを見限り、鉄道という新しい未来に賭けた星野の情熱が、1914年の東上鉄道開通(池袋ー田面沢間)を実現させました(根津嘉一郎が東上鉄道の取締役社長、星野仙蔵は監査役に就任)。
  3. 現代へ続く縁: 俳優の星野真里さんの実家でもある星野家。彼らが守ってきた歴史の地、ふじみ野市の「福岡河岸記念館」では、今も当時の隆盛をしのぶことができます。
ロケ地としても有名な舟渡水辺公園。

■ 結びに:鉄路をゆく、新たな「舟」

かつて高瀬舟が米や特産物を運び、地域を潤したように、新型90000系は「令和の渡し舟」として、地域の人々と未来を運びます。

星野仙蔵が舟運から鉄道へと繋いだ情熱は、100年以上の時を経て、舟のデザインを纏った最新車両へと結実しました。この春、東上線に吹き込む新しい風に注目です。

この記事を書いた人

なりチャン

なりますチャンネルは、成増をベースに東京の城北エリア(板橋・練馬)の地域情報を地元目線でリアルタイムにお届けしていきます✉「子どもたちが地域の方々と触れあい、地域をもっと好きになってほしい」という想いで2022年頃に始めました。月間40万PV(2025年10月)。