通勤客を襲った早朝の混乱

2026年1月22日、午前6時34分。東京メトロ有楽町線・副都心線の地下鉄赤塚駅で発生した人身事故は、週明けの通勤・通学時間帯に深刻な影響を及ぼしました。

事故発生から約2時間後の8時39分に運転は再開されましたが、池袋方面へ向かう列車を中心に大幅なダイヤの乱れが発生。隣接する東武東上線(下赤塚駅)への振替輸送も実施されましたが、駅構内のみならず改札外まで人が溢れかえる事態となり、ホームドア設置が進む中でも鉄道運行の脆弱性が露呈する形となりました。
劇的な効果を上げるホームドアの「光」

ホームドアの設置は、物理的に転落や接触を防ぐため、人身事故の減少に劇的な効果をもたらします。先行して設置率100%を達成した東急電鉄の例を見ると、設置率42%だった2014年度の転落事故131件に対し、全駅設置後の2020年度はわずか5件にまで激減しています。視覚障害を持つ方や酔客の誤転落を未然に防ぐ「安全の砦」として、ホームドアの価値は疑いようがありません。

現在、地下鉄赤塚駅周辺や下赤塚駅でもホームドアの整備が進んでおり、落下事故や衝動的な接触事故を減らす大きな期待が寄せられています。
依然として残る「影」:乗り越え事故の現実

しかし、万能に見えるホームドアにも「限界」は存在します。それは、自ら死を選択しようとする「故意の乗り越え」です。

近年の事例を振り返ると、その深刻さが浮き彫りになります。
- 2022年12月(都営三田線・志村三丁目駅):30代男性がホームドアを乗り越え死亡。
- 2024年2月(札幌市営地下鉄・南郷7丁目駅):40代男性が乗り越えにより列車と接触。
- 2025年10月(東京メトロ東西線・妙典駅):快速電車にはねられ男性が死亡。

これらの事故はいずれもホームドアが設置されていたにもかかわらず発生しており、防犯カメラの記録や遺書から「自殺」とみられています。ホームドアの主な役割は「不意の転落防止」であり、東京メトロ南北線のような天井までを覆うフルスクリーンタイプでない限り、物理的に乗り越えるという個人の衝動的な行動を完全に阻止することは不可能です。
設備投資の先にある、社会全体での課題

フルスクリーン型ホームドアの導入は、駅舎の耐荷重問題や膨大なコストから、全ての駅で実現するのは非現実的です。
地下鉄赤塚駅での事故は、ハードウェア(ホームドア)の整備だけでは解決できない「命」の問題を私たちに突きつけています。

設備による安全性の向上は不可欠ですが、それと同時に、咄嗟に「死」を選択してしまう一歩手前で、いかに個人の心にブレーキをかけられるか。鉄道インフラの進化と共に、社会全体での心のケアや見守りの重要性が、2026年という現代において改めて問われています。

