【板橋のいっぴん】コンサルから老舗の3代目へ。「高島平ビール」が繋ぐ「街の彩り」と「人の絆」

板橋区高島平。かつて「東洋一のマンモス団地」と呼ばれ、高度経済成長期の面影を残すこの街で、いま新しい「街の文化」が根付いています。それが「高島平ビール」です。

このプロジェクトを牽引するのは、団地の歴史とともに歩んできた「若松屋酒店」の3代目、小林健太さん。経営コンサルタントという異色の経歴を持つ彼が、なぜ家業を継ぎ、ビールという手段で街の彩ろうとしているのか。その軌跡を辿ります。

高島平5丁目にある「若松屋酒店」。

コンサルタントとしてのキャリアと「3分の1」の決断

高島平で生まれ育った3代目小林さん。

高島平で生まれ育ち、三園幼稚園、高島第三小・中学校を経て、北園高校、立教大学へと進んだ小林さん。長男として「いつかは家業を継ぐ」という想いを幼少期から抱いていました。

しかし、二代目である父には「自分の道を歩んだ上で、納得して戻ってきてほしい」という深い親心がありました。その想いを受け、卒業後はアビームコンサルティングに入社。あえて一度、家業の外にある厳しいビジネスの世界へと身を投じました。

若松屋酒店の看板。

経営コンサルタントとして、クライアントのために深夜まで奔走する日々。「仕事に終わりはない」と全力で駆け抜けましたが、10年という節目に転機が訪れます。両親の高齢化、家族との時間、そして自分を育ててくれた「若松屋」への恩。

35歳の時、小林さんは家業を継ぐ決心をします。年収はコンサル時代の3分の1になりましたが、そこには数字では測れない「生き方」への挑戦がありました。

魂に触れた「百蔵めぐり」

店内に並ぶ数百種類のお酒が並ぶ。

店を継ぐ前に小林さんが自分に課したのは、1年間の「修行」でした。日本全国100以上の蔵元を訪ね、酒造りの現場をその目で確かめる旅です。

「瓶に入って並んでしまえば同じように見えるお酒も、一つひとつに歴史と想いがこもっている」

「菱屋」と「理八」。一つ一つには酒蔵の歴史と想いが。

津波で全壊しながらも再起した岩手県宮古市の菱屋酒造店の「菱屋」。最新設備で高品質を追求する株式会社獺祭の「獺祭」。歴代首相の実家の歴史を繋ぐ田辺竹下酒造「理八」

小林さんは、こうした「ストーリー」を預かり、地域の人へ伝えることこそが、ネット販売や大手チェーンには真似できない「街の酒屋」の使命であると感じました。

「無いなら創ろう」高島平の地域ブランド

高島平ビール550円。

蔵元を回る際、小林さんは地元の手土産を持参しようとして気づきました。赤塚の「フランス製菓の大仏サブレ」や成増の「田中屋の和菓子」はあるのに、高島平には何もない。

「高島平の手土産になる、街の誇りを創りたい」

その想いが「高島平ビールプロジェクト」の種となりました。自治体の後ろ盾も商工会議所の支援もない、完全な民間プロジェクト。在庫リスクを抱え、多忙な個人店の店主たちを自ら一軒一軒回り、試飲を重ねる地道な作業。

高島平新聞に掲載された記事(提供:高島平新聞)。

その熱意は波紋のように広がり、地元の飲食店主やデザイナーたちが「プロジェクトメンバー」として次々と集結。さらには地元紙や地域を愛するプロレスラーまでもがその輪に加わりました。高島平という街が、今、「ビール」という旗印のもとに一つの大きな共同体として動き始めました。

ホワイトエールの誕生と「板橋のいっぴん」受賞

2025年10月に発売された「高島平ビールWHITE」

2019年に誕生した定番の「高島平ビール」は、クラフトビールの旗手・ベアードブルーイングが醸す本格派。さらに2022年には区民の圧倒的支持を受け「板橋のいっぴん」に認定されました。

そして2025年。小林さんは第2弾として、苦味を抑えた「高島平ビール ホワイト」をリリースします。小麦由来の柔らかな口当たりとアルコール度数4.5%の軽やかさ。

高島平ビールののぼり。

「ビールが苦手な人や、初めて居酒屋の暖簾をくぐる人の最初の一歩になってほしい」

このホワイトビールには、街の高齢化が進み、娯楽が減りつつある高島平に、もう一度「彩り」を取り戻したいという願いが込められています。

項目高島平ビール(定番)高島平ビール ホワイト
アルコール度数5.50%4.50%
苦味の印象ホップの力強い苦味とコク苦味を抑えた、優しい味わい
香りの特徴柑橘系のフルーティーな香り爽やかでスッキリとした香り

結び:世間様にワクワクを届ける「三方よし」

1972年の入居から半世紀が経った団地。

小林さんが幼い頃から両親に言われてきた言葉、それは「世間様」でした。 近江商人の「三方よし(売り手良し・買い手良し・世間良し)」の精神。自分の店だけが儲かるのではなく、ビールを通じて地元の飲食店が賑わい、街の人がワクワクする。

50年前に突如として生まれた「なにもない」はずの街に、いま、一つの文化が醸造されています。

「高島平ビールが、誰かが居酒屋の扉を叩くきっかけになり、街と人をつなぐきっかけになってくれたら嬉しい」

コンサル出身の3代目が描く戦略は、クールな数字ではなく、どこまでも温かい「街への愛情」に溢れていました。

ぜひ皆さんも高島平ビールを飲みに地域のお店に足を運ばれてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

なりチャン

なりますチャンネルは、成増をベースに東京の城北エリア(板橋・練馬)の地域情報を地元目線でリアルタイムにお届けしていきます✉「子どもたちが地域の方々と触れあい、地域をもっと好きになってほしい」という想いで2022年頃に始めました。月間40万PV(2025年10月)。