板橋に芽吹くのは9棟の「タワー」。―「東京で一番住みたいまち」とは

板橋区役所のギャラリーモールで開催された「まちづくりパネル展」

2026年1月、板橋区役所の一階ギャラリーモール。窓口に並ぶ椅子と日常の喧騒の傍らで、「まちづくりパネル展」が開催されていました。

街中で目にした「東京で一番住みたいまちをめざして」というサブタイトルに強く惹かれ、会場に足を運びました。しかし、そこに掲げられていたのは、区内で建設中、あるいは建設予定の8棟(高島平の小学校跡地を含めれば9棟)ものタワーマンションの写真が並ぶ光景でした。

1972年に入居が始まった高島平団地とお山の公園。

確かに、街には新陳代謝が必要です。 かつて「東洋一のマンモス団地」と呼ばれ、子供たちの声が響いた高島平。今では「お山の公園」の頂上にも人はまばらで、小学校の教室では多国籍な子供たちが、言葉の壁を越えようと懸命に学んでいます。

JR板橋駅前の再開発。

高度経済成長期に一斉に建てられたマンモス団地や、戦後の闇市・マーケットをルーツに持つ雑居ビル。それらは時代を支えてきましたが、今や取り残されつつある構造物となっているのも事実です。古い大木が倒れ、そこから新しい若木が成長するように、街がその構造を組み替えるのは必然です。板橋区もまた、新しい力が生き生きと芽吹く素地を作るべき時期なのでしょう。

しかし、その素地をデザインした結果が、なぜ「9棟のタワーマンション」に集約されてしまうのでしょうか。

再開発においてタワマンが選ばれる「背景」

大山のハッピーロード商店街にそびえる2棟のタワー。

そこには、現代の再開発システムが抱える構造的な理由があります。

  • 「保留床」という仕組み: 莫大な解体費や建築費を賄うため、デベロッパーは上に高く伸ばして「売却できる床」を増やします。その利益を事業費に充てることで、プロジェクトを成立させています。
  • 自治体の人口獲得競争: 効率的に現役世代を呼び込み、固定資産税を安定させるための最短ルートとして、タワマンは自治体にとってもメリットがあります。
  • 消費者のニーズ: 共働き世帯にとって、駅近で「タイパ(タイムパフォーマンス)」に優れたタワマンは、資産価値も含めた魅力的な選択肢となっています。

隣接する和光市でも同様の計画が進んでいます。経済合理性だけを見れば、これらは一つの「正解」かもしれません。しかし、一歩立ち止まって考えてみたいのです。「東京で一番住みたいまち」の答えは、本当にこれだけでいいのでしょうか。

「垂直の街」が抱える課題

かつて高島平団地に入居を希望した人々が抱いた期待感は、今や「維持管理」という現実的な不安へと変わりつつあります。

タワマンには特有のリスクが伴います。割高な修繕費用、数千世帯に及ぶ住民同士の合意形成の難しさ。何より、巨大な「壁」が周辺環境やインフラに与える負荷は、将来にわたって街の課題となります。

再開発で揺れるピッコロ地区。

かつてのマンモス団地が歩んできた歴史を、私たちは別の形で繰り返そうとしているのではないか、という危うさを感じずにはいられません。

地域の特性を活かした「芽吹き」に学ぶ好事例

日本各地には、巨大なビルを建てずとも街を再生させた素晴らしい事例がいくつも存在します。

徳島県神山町のように、古民家とITインフラを融合させて「知の再開発」を成し遂げ、さらに「神山まるごと高専」という教育の種をまいた街。

島根県海士町のように、教育というコンテンツを核に据え、若者を呼び戻すことで街の誇りを再生させた街。

そして高松市の丸亀町商店街のように、土地の所有と利用を切り離すことで、100年先を見据えた「住める商店街」を再構築した街。

これらに共通するのは、その土地にしかない文化や伝統、人のつながりを深掘りし、他にはない魅力を高めている点です。

板橋にしかない「魅力」とは

板橋区には、ものづくりの魂が息づく工業都市としての歩み、往時の賑わいを今に伝える宿場町の風情、そして何より、この地に根ざした人々の温かな絆という、豊かな土壌が確かにあります。

「東京で一番住みたいまち」を目指すとき、その真価は駅前に並ぶタワーの数だけで測れるものではないはずです。空を遮るような巨大なコンクリートの塊だけでなく、もっと地面に近い場所で、板橋独自の文化や人の温もりが穏やかに循環するような、この街ならではの再開発のあり方もあったのではないでしょうか。

新しく芽吹く若木が、タワーの影に隠れてしまうことなく、のびのびと枝を広げられる街。そんな「板橋にしかない未来」を、ハードの裏側にある物語まで含めてデザインするような都市設計の在り方を模索することはできないのでしょうか。

ギャラリーモールのパネルを後にしながら、そんな問いを自分の中に抱き、冬の板橋の街を歩いて帰路につきました。

この記事を書いた人

なりチャン

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