坂道を下り、駅から少し離れた静かな住宅街。旭町の白子川のほとりに、地域の人々から深く愛されているお弁当屋さんがあります。

お店の名前は「初音(はつね)」。

美味しいお弁当をお手頃な価格で提供する街の小さなお店ですが、実はこの「初音」、かつて成増の街の歴史と発展をすぐ側で支え続けた、由緒ある日本料理店が前身であることをご存知でしょうか。

今回は、一口食べれば誰もが虜になるお弁当の美味しさの秘密と、成増とともに歩んできた「初音」の深い歴史を紐解きます。
■ 白子川のほとりで味わう、本格派の絶品お弁当

「初音」の魅力は、何と言っても職人の技が光る美味しいお弁当をリーズナブルに味わえること。

数あるメニューの中でも、特におすすめなのがボリューム満点の「ハンバーグ&唐揚げ弁当」や、定番にして王道の安心感がある「鮭&唐揚げ弁当」。

さらに、その日の楽しみが詰まった「日替わり弁当」のラインナップもあり、お店の公式Instagramで日々アップされています。

お弁当のほかにも、ふっくらと焼き上げられた「うなぎ」や、じんわりと出汁の旨味が染み出す「出汁巻玉子」は絶品。地域の人々が集う「なりますチャット」でも時折話題にのぼるほど、根強いファンを持っています。
一口ごとに感動が広がる、丁寧な手仕事

「初音」のお弁当は、主役のおかずだけでなく、副菜の一つひとつまで味がしっかりと決まっています。 例えば、煮物に入っている根菜を覗いてみてください。驚くほどきれいに、そして丁寧に「面取り」が施されていることに気づくはずです。

こうした見えない部分への徹底したこだわりと職人としてのプライドが、お弁当全体の美味しさを生み出しています。
■ 成増の「ハレの日」を支えた「日本料理 初音」の軌跡

これほど本格的な和食の技術をカジュアルに楽しめるのには、確かな理由があります。 実は、初音のご主人はもともと成増を代表する格式高い日本料理店を営んでいました。
昭和25年創業、スキップ村の入り口にあった「初音ビル」

創業は終戦からわずか5年が経った、昭和25年(1950年)。 かつて成増スキップ村の入り口、川越街道沿いの角地には「初音」の建物がありました。そこで暖簾を掲げていたのが「日本料理 初音」です。

創業当時のスキップ村は、まだ木造家屋が並び、個人店がそれぞれ生業を営んでいた時代。その中で、2階建ての立派な家屋の1階に「すし店」と下駄屋、パーマ屋の3店舗をまとめ、2階には広々とした「宴会場」を備えた初音の建物は、当時としてはまだ珍しく、街の象徴的な存在でした。

成増の地で冠婚葬祭や地域の集まり、お祝い事といえば「初音」。地元の方々にとって、ここは数々の人生の節目や思い出が刻まれた、特別な場所だったのです。
共に時代を歩んだ、懐かしい仲間たち

「当時お店をやっていた頃から、今も続いているお店はありますか?」とご主に伺うと、目を細めながら、まるで昨日のことのように懐かしそうに、当時付き合いのあった“友達”の名前を挙げて教えてくれました。
- 「アンバサダー星野」さん
- 「やまだや」さん
- 「ひさご」さん 等
激動の時代を経て成増の街を見守ってきた老舗同士の深い絆とリスペクトが、その優しい語り口からじんわりと伝わってきます。
■ 街のあちこちに残る「初音」の記憶

成増周辺を歩いていると、「初音」という文字をあちこちで見かけることに気づくかもしれません。
かつては川越街道の消防署の裏手あたりに「旅館 初音」もあり、成増を訪れる人々を温かく癒やしていました。

また、駅前の「初音ビル」こそ名前を変えてしまいましたが、北口商店街(成増北口通り商店街)で今も営業を続ける銭湯「初音湯」も、もともとは初音の系列店でした。現在は事業を他の方へ譲られていますが、今も変わらず「初音」の名前が残り、街の日常に溶け込んでいます。
時代の流れとともにスキップ村にもビルが立ち並び、大型店舗が増えていく中で、「日本料理 初音」はひとつの役割を終え、2000年代に入ってしばらくした頃に店舗を閉じ、現在の旭町の場所へと移転してきました。
■ 姿を変えても、おもてなしの心はそのままに

以前は移転先のアットホームな店内での食事も可能でしたが、コロナ禍をきっかけに、現在はお弁当のテイクアウト販売を中心に行っています。かつての高級料亭の味、職人のこだわりを、今の時代に寄り添った手頃な価格で守り続けているからこそ、地元の人々から変わらぬ人気を誇っているのです。
駅から少し距離があり、途中に坂道もあるため、近隣にお住まいでない方は少し見つけにくい隠れ家のような場所かもしれません。
しかし、そこには確かに、昭和、平成、令和と成増の歴史を紡いできた職人の技と、温かいおもてなしの心が息づいています。
皆さんもぜひ、美味しいお弁当を求めて白子川のほとりへ足を運んでみてはいかがでしょうか。きっと、歴史を知るご主人が温かい笑顔で迎えてくれますよ。







